作品レビュー:映画『ENGLAND IS MINE』

若者とは無謀であり無責任であり尊大なもの。これは決して貶しているわけではなく、ある種の彼らが有する特権だ。
肥大する自意識と社会における無力感が心の中で激しく混じり合い、爆発する。

抑えられない自我の発露が芸術に向くのか運動に向くのか、はたまたイデオロギー活動に向くのか異性に向くのか、酒や薬に向かうかは人それぞれ。

そこでうまく発散できるのかバランスが取れるのかが、大人になる前の通過儀礼なのでしょう。


popsやrockもそう。
母親が思わず耳を塞ぐものほど、父親が思わず口角泡飛ばすものほど良質なものと保証される。
50に近い私が見たら所謂若者たちのカリスマの如何に胡散臭い事か。でもそれで良い。それでこそ彼たちはカリスマたり得るのだから。


イギリス、マンチェスターに住んでいたスティーヴン・パトリック・モリッシーもまた無謀で無責任で尊大な若者の一人であったし、同様に鬱屈した自分を持て余していたし、そして後の若者たちのカリスマになった一人でした。


彼がフロントマンとして活動したThe Smithsは、当時の日本ではそれほど知名度が上がらなかったものの、イギリス本土では多くの若者の心を掴み、そして同時代のアーティストに多大な影響を与えました。活動期間がたったの5年足らずなのに。



The Smithsは私の数少ない青春と呼べるものだったし、いつでも必ず側にあり続けていました。
最初の出会いは唐突でした。中学生の頃深夜何気なく聞いていたFM番組でこの曲を知ってからです。


William, It Was Really Nothing
432f2104116f100b5d8219da41684802.jpg.png



それまで聞いたことのないメロディでありボーカルで、「アマデウス」のサリエリではないですが正に新しさが溢れていたし、それまで聞いていたアーティストとは全く異質なものだとすぐに分かりました。

翌日、早速洋楽好きの友達に聞いて彼らを知り、そこからどんどんのめり込んでいったのは言うまでもないです。



The Smithsといえば、ジョニー・マーの奏でるメロディの独特さ、そして多彩さ。
そして何より、時にメロディと波長を合わせ、時に拮抗するモリッシーの揺れ動くボーカルと歌詞の表現が他のアーティストと一線を画していました。


私は彼の詩集を持っていますが、扱うテーマが世界の核心を突いているわけでも人類の神秘を探求しているわけでもありません。ただの鬱屈した若者が抱える何気ない事柄を扱うばかりなのだけれど、その表現や書きようは、他のアーティスト全部をインスタントなものに変えてそのままゴミ箱に放り込むほどの衝撃でした。

愛しているだの恋したいだの、恋愛言葉のインフレーションに溢れ返っていた当時の国内の歌に散々辟易していた当時の私には何より新鮮であり、歌詞とは、選ばれし者のみに書くことが許されるものだと確信させるほどの説得力がありました。




That Joke isn't Funny Anymore
c8d470e36c3f6b3b21d01ad3a71ca1c1.jpg.png



l've seems this happen in other people 's lives
and now it's happening in mine
(他の人たちの人生にも起こること、それが今僕に起こっている)

この曲はもう数百回は聞き込んでいる私の中のベストであり、最後に繰り返される念仏のようなこのフレーズは、過去も現在も人生のあらゆる瞬間に必ず私の脳裏に現れる言葉となっています。





『ENGLAND IS MINE』
2019年
監督:マーク・ギル
出演:ジャック・ロウデン他


しかし、まだバンドメンバーが存命の今に、彼らのバイオグラフィー的な映画が作られ上映されるとは知らなかった。
一昨日何気なくネットで見つけ、上映劇場を探したものの一番最寄が横浜の単館。

「遠い。。。」

しかも上映終了まであとわずかなこともあって、疲れた体に鞭を打ち電車を乗り継ぎ行って参りました。



シネマジャック&ベティ
IMG_1632.jpeg
黄金町にある映画館でしたが、黄金町って所謂「大人の歓楽街」なのね、、、、知らなかった。


劇場内はこんな感じ。「ジャック」と「ベティ」という2つの劇場を有しています。
IMG_1633.jpeg
フランスビールを飲みながら上映を待つ間、昔々の懐かしい思い、単館系映画を見漁っていた頃を思い出してワクワクしていましたよ。


The Smiths結成前夜における、スティーヴン・パトリック・モリッシーの伝記的映画だということで、まあある程度は想像していたけれど、その想像を超えるものではなかったような、そんな作品でした。


一番心配だった劇的要素が、やはりというか予想された通り少ないため全体的に起伏が少なく間延び感があることはどうしようもないけれど、モノローグの使い方がちょっと中途半端なことが気になりました。内容を変えないなら私だったら後20分はカットしたろうし、モノローグを使うならもう少し足す、使わないなら全部カットしていたでしょう。

そして、フィルムノアールとかいう抽象的な表現に逃げなくても良かったと思う。気持ちは分からなくもないけれど練り上げが足りない、中途半端だった。


伝記スタイルのため世界観が相当に狭い。だからいっその事伝記という縛りからあえて離れてファンタジックな要素を加えてみるとか、例えば後に生み出される多くの楽曲をモチーフにした創作シーケンスをいくつか挿入してみるとかにすれば、違うテイストの作品になったかも知れない。


ただモリッシーに扮した俳優がとても好演していたので最後までどうにか完走できた、、、かな。
上手い役者でした。彼の演技に相当救われていましたね。


おそらく本作の監督は私とほぼ同じ年齢で、The Smithsに出会ったタイミングもほぼ同じようで、まるで友達が作ったような映画な気がしてならなかったです。
声掛けてくれたらアイデア出してあげたのに、、、などなど。なぜか親近感が湧きましたね。


上映後、「大人の歓楽街」からさっさと離れて自宅近くの居酒屋で一人飲みしながら映画の事を考えることも、本当久々だったし、ノスタルジーに浸った1日でした。



でも、「ボヘミアン・ラプソディ」しかり、今度上映予定の「ロケットマン」しかり、昔聞いたアーティストの映画を見るようになるとは、、、、、そんな年齢になったのかと愕然とします。



この記事へのコメント